たまには映画の話でも
レビューを書いたことがあったのを思いだした。当時お世話になっていた自転車専門誌のムックのためのもの
選んだのは編集部の方。VHSのビデオテープが自宅に届いた。タイトルは「イル・ポスティーノ」
“イルポスティーノ”(郵便配達人)というタイトルのこの映画に、自転車はあまり登場してこない。時は1950年代。イタリアは
ナポリ沖の小さな貧しい島が舞台だ。主人公は、マリオという名の貧しい無職の青年だ。
物語は、映画館でニュース映画を見たマリオが、チリの国民的な詩人“パブロ・ネルーダ”が、亡命して自分たちの島にやってくる
のを知ったところから始まる。映画からの帰りに、「郵便配達人募集。要自転車」の募集を見つける彼。映画館から自転車をかかえ
て出てくるあたりに当時の人々(僕らの親の世代)の、物を大事に使う心を感じる。翌日、郵便局で面接を受けて郵便配達人になる
マリオ。しかも、偉大な詩人のところに世界中から届く手紙を届けるためだけに雇われて。
島の高い場所にある詩人の家まで、実用車にまたがって立ち漕ぎで上っていくマリオの姿が見える。青い海が遥か下に見えて、
水平線が見える未舗装の道。舞台になったサリーナ島の風景は、僕が生まれ育った五島列島で見た景色に似ている。自転車で
峠を越えて海を見下ろす。下り坂で感じた潮の匂いを思い出してしまった。
最初は素っ気ない感じのパブロだが、少しずつマリオと打ち解けていく。マリオは詩の「隠喩」や言葉の美しさ、表現することの魅力に
とりつかれていく。そして、恋をした女性に詩を贈り続ける。女性がいるバールまで、パブロとマリオが自転車で向かうところ、詩人の
白い服と青い海のコントラストが美しい。この映画で自転車が出てくるシーンは数えるほどしかないが、印象に残るシーンだ。淡々と
すすむストーリーには、大きな盛り上がりがあるわけではないが、島の人々の会話やパブロとマリオの隠喩を使ったやりとりが面白い。
どことなく、戦後のシチリアを舞台に少年と映写技師の友情を描いた“ニューシネマパラダイス”を思い出させる、静かに感動させられる
作品だ。大切な人と一緒に観ることをお薦めしたい。
この映画を探すのは難しいかもしれないがオススメの映画だ
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